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読み解き 特集 地図:調達・製造 2026年10月31日(土) 6:00

買い手が強い今だから、27年先まで買った

JERA・カタールの27年LNG契約が示す、供給が余る時代の調達術

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今年8月、本誌はLNGの長期契約が2030年代から順に満了を迎えていく、という構造を特集で掘りました。切れたあと誰がどう結び直すのかは、そのときはまだ先の話として書くしかなかった。2月、その「結び直し」の目に見える実例が動きました。日本最大のLNG買い手であるJERAが、カタールと27年間・年300万トンの契約に署名したのです。その長さ自体が何を物語っているのかを、今回は掘ります。LNGを海外から買う、調達の話です。

背景 — なぜ今、これを掘るのか

2026年2月、カタールの首都ドーハで開催された第21回LNG国際会議・展示会(LNG 2026)の会期中に、JERAのグローバルCEOである可児行夫氏と、QatarEnergyのエネルギー担当国務大臣兼社長・CEOであるサード・シェリダ・アル・カービ氏が、新しいLNG売買契約(SPA)に署名しました。内容は年間300万トンを27年間、デリバリード・エックスシップ(DES、売り手が買い手の受け地まで運んで引き渡す方式)で供給するというもの。引き渡しの開始は2028年が見込まれています。

出典:Hydrocarbon Engineering「JERA signs LNG supply agreement with QatarEnergy」、The Energy Year「JERA signs 27-year LNG deal with QatarEnergy」

この契約について、JERAは第7次エネルギー基本計画がガスをカーボンニュートラル実現後も重要な電源として位置づけていることと、データセンターや半導体工場の拡大に伴う電力需要の伸びを踏まえたものだと説明しています。価格などの金額条件は、JERAから公式には開示されていません(日本経済新聞の報道として、年間最大2,500億円規模との推定も伝えられていますが、これは報道側の推定であって公式の確認ではありません)。

27年契約、署名から満了までの流れ 2026年2月 ドーハで署名 年300万トン・27年間のLNG売買契約 2028年 引き渡し開始(予定) DES条件、価格条件は非公開 既存契約が切れ始める2030年より前 2055年ごろ 27年後の満了 2028年から数えた計算上の年次
図:JERA・QatarEnergy契約の時間軸(出典:Hydrocarbon Engineering・The Energy Year、2026年2月の署名報道)

論点① この契約は、何に対する「答え」なのか

8月の特集で見た構造を思い出します。資源エネルギー庁の資料は、既存の長期契約が2030年以降順次満了し、2030年代前半以降の長期契約量は減少傾向になる一方、将来のコストの安定性のためには「適切な現契約の更新および一定程度追加の契約が必要となる可能性がある」と整理していました。

出典:資源エネルギー庁「安定供給に必要な燃料の確保について」(2025年10月15日・資料3)

今回のカタールとの契約は、その「追加」が実際に動いた一例として読めます。300万トンという量は、大手電力・ガス会社が受け入れるLNG全体(数千万トン規模)に対してはごく一部にすぎません。それでも、2028年という引き渡し開始年は、既存契約が満了し始める2030年より前に置かれている。2028年から27年間というと、単純に数えて2055年ごろまで続く計算です。契約が切れる前に、次の契約を先に走らせておく——順番としては、8月の特集が示した「更新は満了の何年も前から始まる」という時間構造に、素直に沿っています。

論点② 「買い手が強い」時期に、売り手が27年も約束した理由

同じ資源エネルギー庁の資料は、2030年頃までは米国・カタールを中心とした供給増により需給が緩和すると見込んでいました。供給が余る局面は、一般には買い手に有利な市場だと言われます。ところが、その局面でQatarEnergyの側が27年という長さに応じたのは、買い手の交渉力だけで説明がつく話ではありません。

供給が余る時期は、売り手にとっても悩みの種です。増産した分の受け皿を、どこかで長期にわたり固定しておきたい。カタールは国内のLNG生産設備を拡張中で、増える生産量の先に需要を確保する必要がある。買い手が将来の品薄(2030年以降とされる局面)を見据えて長期を厚くしたい思惑と、売り手が増産分の受け皿を長期で固定したい思惑が、このタイミングで重なった——そう見るほうが、27年という長さの実現を無理なく説明できます。

論点③ 公表された数字と、公表されていない数字

ここで、分かっていることとわかっていないことを分けておきます。公表されているのは量(年300万トン)と期間(27年)、引き渡し条件(DES)、開始見込み(2028年)です。価格条件は公表されていません。LNGの長期契約は原油価格連動(JCCなど)が主流で、米国の天然ガス価格指標(ヘンリーハブ)に連動する契約も増えている、というのが8月の特集で見た構造でしたが、本件がどの指標に連動するのかは、今回参照した報道には記載がありません。LNG市場の解説章が整理する価格指標の仕組みは、この契約の価格条件を推測するための手がかりにはなりますが、答えそのものは公表情報の外にあります。

DES(デリバリード・エックスシップ)という条件は、売り手が輸送まで担う引き渡し方式です。輸送の裁量を誰が持つかという点では、買い手側が自由に転売ルートを選べる契約とは性格が異なります。ただし、この契約に仕向地条項(転売先を制限する条項)が付いているかどうかは、公表情報からは確認できません。長さだけを見て「買い手に有利な契約だ」と決めつけるのは、わからないことをわかったことにする書き方になってしまいます。

反対から見ると

ここまでの読み方には、いくつも留保が要ります。

第一に、1社・1件の契約を業界全体の潮流に結びつけるのは早計です。同じ時期に他の大手電力・ガス会社が同様の長期契約を結んだという情報は、今回確認できていません。

第二に、300万トンという量は小さい数字です。2025年の日本全体のLNG輸入量は約6,498万トン(8月の特集で既出)で、今回の契約量はその20分の1以下にとどまります。

第三に、価格条件が非公開である以上、「買い手に有利な条件だった」かどうかは経済的には検証できません。長さと有利・不利は、別の軸です。

第四に、論点②の前提にも留保が要ります。「2030年頃までの需給緩和」は供給側の見通しですが、その先の2030年代以降の需要動向については、資源エネルギー庁の資料自身が「第7次エネルギー基本計画に基づく将来のLNG需要量には一定の幅が存在する」としています(8月の特集で見た2040年度の3ケース試算と同じ性質の留保です)。需要の読みが変われば、売り手も受け皿を欲しがっているという論点②の構図も、そのまま成り立つとは限りません。

第五に、JERAは発電事業者であり、都市ガス事業者ではありません。この契約で確保されるLNGが、どの経路でどの都市ガス事業者の調達に関わってくるのか、あるいは関わらないのかは、今回参照した情報だけでは分かりません。

仕事への問い

調達部門に直接関わっていなくても、無縁ではありません。企画や経営企画に関わる立場なら、2028年に新たに市場へ出てくる契約が、自社の仕入れ環境にどう影響するかを、調達担当の誰に聞けば分かるか、一度確かめてみる価値があります。営業や料金の窓口に立つ立場なら、原料調達の話が自分の説明にどこまで降りてくるか——取引先から「なぜ今、長期契約の話が出ているのか」と聞かれたとき、答えられるでしょうか。

まとめ(3〜5行)

  • 2026年2月、JERAとQatarEnergyがドーハで27年間・年300万トンのLNG売買契約に署名。DES条件で、引き渡し開始は2028年の見込み
  • 公表されているのは量と期間のみで、価格条件は非公開(報道の推定はあるが未確認)
  • 8月の特集で見た「2030年代に契約が順次満了する」構造に対する、結び直しの最初の実例と読めるが、量は輸入全体のごく一部にとどまり、供給過剰という前提自体にも幅がある

この記事の一次資料(3)

  1. Hydrocarbon Engineering「JERA signs LNG supply agreement with QatarEnergy」
  2. The Energy Year「JERA signs 27-year LNG deal with QatarEnergy」
  3. 資源エネルギー庁「安定供給に必要な燃料の確保について」(2025年10月15日・資料3)

記事の数字・範囲を限る言葉・増減の向き・因果は、公開前に別のAIがこれらの資料の原文と照合しています(編集と検証のしかた)。正確な判断が必要なときは、原文をご確認ください。

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