クリーン燃料証書の実証事業、JKMと裁定取引、米ネブラスカ州のe-メタン事業、長期脱炭素電源オークションの落札名簿。今週の4本は、制度も国も規模もばらばらでした。それでも並べ直すと、同じ形をしています。モノと、それについて回る権利や名義が、別々に動きはじめている——今週はその話ばかりでした。
今週の3つの動き
① 環境価値が、分子から離れる(8/31 脱炭素、9/3 他社事例)
8月27日、BIPROGYが資源エネルギー庁から、合成メタン・バイオガスの環境価値を認証・移転する「クリーン燃料証書制度」の構築に向けた実証事業を受託したと発表しました。実証期間は2026年8月から2027年3月まで。通してみるのは、認証・発行・移転・償却の一連のプロセスです。
事業名に「移転」が入っている時点で、性格が決まっています。移せるということは、導管を流れてきた分子を燃やした人と、その脱炭素の効果を自分の実績として数える人が、別々でよくなるということだからです。そして工程の最後に「償却」が置かれている。同じ削減量が二度数えられていないかを、制度の内側で担保しにいく設計です。
木曜に読んだLive Oakプロジェクトは、同じ問題に別の入口から入っていました。東邦ガス・大阪ガス・伊藤忠商事が参画する米国ネブラスカ州のe-メタン製造事業が8月28日にFEED開始。年間約7.5万トン、250MW級の水電解装置、CO₂はバイオエタノール工場から回収し、2030年度中の商業運転を目指します。日本への供給は、米国の天然ガスおよびLNGの既存インフラを利用する建て付けです。
つまり船に載るのは、物理的には在来のLNGと区別のつかないメタンです。それがe-メタンであることは、分子の側では示せない。書類の側で担保するしかありません(メタネーションの解説章)。→ クリーン燃料証書の記事/Live Oakの記事
② 名義が、動かす手から離れる(9/5 特集)
土曜の特集では、長期脱炭素電源オークション3回分の落札電源一覧を並べました。都市ガス大手の社名が出た枠は、東京瓦斯の千葉袖ケ浦パワーステーション604,831kW、大阪瓦斯の姫路天然ガス発電所3号機565,780kW、東邦瓦斯の(仮称)ガス火力発電所101,614kW。3件ともLNG専焼火力の枠です。蓄電池や揚水が並ぶ脱炭素電源の側に、社名はありません。
ただし、蓄電池をやっていないわけではありません。東京ガスは7月15日、運用を予定する系統用蓄電池の容量(特別高圧・高圧合計)が107.6万kWになったと公表しており、事業の柱は自社開発・オフテイクによる利用権獲得・最適運用サービスの三つです。名簿に載っているのは別の主体で、ガス会社は契約でつながる側にいます。
落札すれば固定費水準の収入が原則20年得られる代わりに、他市場収益は約9割が還付される。名義を持って確定利回りを受け取る側と、価格が動く場面で充放電を差配して稼ぐ側が、制度の設計上そもそも分かれやすい、ということです(電力とガスの融合の章)。→ 落札名簿の特集
③ 分子のほうは、まだ値差で動いている(9/1 市況・地政学)
一方で、モノそのものは相変わらず物理の理屈で動いていました。
JOGMECの週次レポートによれば、北東アジアのスポットLNG価格(JKM)は8月21日の23ドル後半から、8月28日には24ドル半ば(10月受渡)へ。上昇要因の筆頭に置かれていたのは冬季需要ではなく、欧州のガス価格との値差縮小に伴う米国産LNGのアジア向け裁定取引の減少でした。同じ8月28日のTTFは23.4ドル(10月限月)。引き渡し地点も指標の建て付けも違うので、この差がそのまま裁定コストの計算になるわけではありませんが、桁感としては1ドル前後。太平洋を越える日数と運賃を払わせるには、薄い。
在庫の側も置いておきます。JOGMECの月報によれば、欧州の地下ガス貯蔵の充填率は8月22日時点で61.7%(前年同期75.4%、過去5年平均79.9%)。欧州が冬に向けて積み増せばTTFが上がり、値差はさらに縮む方向に働きます。証書が国境をまたいで通用するかどうかは、実証でこれから調べるところです。船のほうは、値差が足りなければ今週にでも向きを変える(LNG市場のしくみ)。→ JKMと裁定取引の記事
横串の視点──離した分だけ、突き合わせる仕事が生まれる
3つとも、切り離しの話でした。環境価値を分子から。名義を運用から。切り離せば身軽になる——はずなのですが、4本を並べると、そう単純ではありませんでした。
離したものは、どこかで必ず突き合わせが要ります。証書に償却の工程が必要なのは、二度数えを防ぐためです。米国から届くe-メタンが在来LNGと区別できないのなら、その分子と書類が対応していることを、誰かが確かめ続けなければならない。落札名義と運用主体が分かれるなら、107.6万kWという数字の内訳——自社開発分・オフテイク分・受託分の別——は公表資料からは読めません。
先週は「出す締切はあるが、読む締切はない」と書きました。今週わかったのは、その読む対象が、単体の資料から、資料と資料の対応関係へ移っていくということです。分離が進むほど、突き合わせの仕事は増える。しかもその仕事は、たいてい誰の担当にもなっていません。
来週への問い
来週は9月の2週目。GX-ETSの届出と移行計画の期限である9月30日まで、1か月を切ります。
今週の切り口で言えば、移行計画もまた「分離されたもの」です。設備や燃料そのものではなく、それについての宣言が、書式に載って外へ出る。読む側にとっては、顧客の設備を見に行かなくても行き先が読めるということでもあります。ただし読めるのは、書類と現物が対応しているという前提の上でだけです。
自社が今月出す書類と、来年度に動かす設備は、対応していますか。
まとめ(3行)
- 今週は4本。クリーン燃料証書の実証事業、JKMと裁定取引、米ネブラスカ州のe-メタン事業のFEED開始、長期脱炭素電源オークションの落札名簿と題材はばらけたが、いずれも「モノと、それについての権利・名義が別々に動く」話だった
- 分かれ方は2種類。環境価値が分子から離れる(証書の認証・発行・移転・償却、既存のLNGインフラで届くe-メタン)、名義が運用から離れる(都市ガス大手が落札した枠はLNG専焼火力だけで、蓄電池には契約でつながる)
- 一方、分子そのものはまだ値差で動く。JKM(10月受渡)は8月28日に24ドル半ば、上昇要因の筆頭は欧州のガス価格との値差縮小に伴う米国産LNGのアジア向け裁定取引の減少だった。書類の通用範囲はこれから設計されるが、船は運賃分の値差がなければ向きを変えない
※ 筆者は都市ガス事業者に勤務しています。本記事は公表情報のみに基づく個人の見解です。