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読み解き 特集 2026年9月5日(土) 6:00

ガス会社が取った枠は、ガスだった

長期脱炭素電源オークション3回分の落札名簿から読む、総合エネルギー化の実像

約12分 ガスみらい通信 編集

「総合エネルギー企業へ」。中期経営計画のページをめくると、たいていこの言葉が出てきます。電気を売り、再エネを持ち、蓄電池も視野に入れる——第2の柱、という言い方もよく使われます。

ただ、言葉ではなく資産で確かめる方法があります。20年分の収入が約束される制度に、誰が名前を出したか。長期脱炭素電源オークションは2023年度の応札分から3回実施され、落札した事業者と案件名が毎回そのまま公表されています。3回分の名簿を並べると、都市ガス会社が実際に取りにいった枠が見えてきます。

この特集では、その名簿を手がかりに、「第2の柱」がどこに立っているのかを読みます。

背景 — なぜ今、これを掘るのか

まず、電力が事業規模としてどれくらいになったのかを押さえます。

東京瓦斯株式会社の2026年3月期決算短信によれば、2025年度の連結電力販売量は28,021百万kWhで、前年度の23,440百万kWhから19.5%増。内訳は小売が16,461百万kWh(14.0%増)、卸他が11,560百万kWh(28.4%増)です。電力小売のお客さま件数は4,337千件(4.5%増)。

同じ資料で、都市ガスの販売量は11,175百万m³、前期比0.4%減です。

さらに2026年度の見通しを見ると、方向の差がはっきりします。都市ガス販売量は10,790百万m³で3.4%減、電力販売量は28,490百万kWhで1.7%増。会社の説明では、ガスは住宅性能向上に伴う省エネ等による家庭用の需要減と発電用等の需要減、電力は卸向け販売量増が理由とされています。

セグメントの姿も置いておきます。エネルギー・ソリューションセグメントは売上高2兆4,861億円、セグメント利益1,502億円(前期比285億円増)。一方、ネットワークセグメントは売上高3,344億円に対し、セグメント利益は41億円でした(前期比72億円改善)。

出典:東京瓦斯株式会社「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年4月28日)

数量で見れば、電力はもう副業のサイズではありません。電力とガスの融合の章で整理したセット販売の話は、とうに次の段階に移っています。

では、その電力を支える電源の側はどうなっているのか。ここで名簿の出番です。

長期脱炭素電源オークションは、容量市場の一部として、脱炭素電源への新規投資を促すために設けられた仕組みです。制度の骨格を三点だけ確認しておきます。各応札電源の応札価格がそのまま約定価格になるマルチプライス方式であること。落札すると、固定費水準の容量収入が原則20年間得られること。そして、卸市場・非化石市場等からの他市場収益は事後的に約9割を還付する設計であること。

出典:電力広域的運営推進機関「容量市場 長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2025年度)」(2026年5月13日)

長期の収入が固まる代わりに、上振れはほとんど手元に残らない。そういう性格の枠に、どの会社が手を挙げたかという話です。

論点① 名簿に出てくるのは、いつも「LNG専焼火力」の枠だった

3回分の落札電源一覧を、都市ガス会社の視点で並べます。

第1回(応札年度2023年度・2024年4月26日公表)。LNG専焼火力の落札10件のうち、東京瓦斯の「千葉袖ケ浦パワーステーション」が604,831kW、大阪瓦斯の「姫路天然ガス発電所3号機」が565,780kW。脱炭素電源の落札42件のほうに、都市ガス会社の社名はありません。

出典:電力広域的運営推進機関「長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2023年度)別紙:落札電源一覧」(2024年4月26日)

第2回(応札年度2024年度・2025年4月28日公表)。LNG専焼火力の落札4件のうち、東邦瓦斯の「(仮称)ガス火力発電所」が101,614kW。脱炭素電源の落札34件は蓄電池が27件を占め、残りは原子力・揚水・一般水力と、既設火力の改修(アンモニア混焼)が1件です。ここにも都市ガス会社の社名は見当たりません。

出典:電力広域的運営推進機関「長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2024年度)別紙:落札電源一覧」(2025年4月28日)

第3回(応札年度2025年度・2026年5月13日公表)。脱炭素電源28件、LNG専焼火力4件。LNG専焼火力は北陸電力、九州電力、JERA(袖ケ浦火力発電所新1号・新2号)で、都市ガス大手の社名は今回、どちらの区分にも出てきません。

出典:電力広域的運営推進機関「長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2025年度)別紙:落札電源一覧」(2026年5月13日)

3回を通して、都市ガス3社が取った枠はすべてLNG専焼火力でした。

この区分の位置づけを確認しておきます。長期脱炭素電源オークションの対象は原則、CO₂の排出防止対策が講じられていない火力(石炭・LNG・石油)を除く電源です。LNG専焼火力はその例外として、短期的な需給ひっ迫防止の観点から、供給力提供開始から10年後までの間に脱炭素化に向けた対応を開始し、2050年までに脱炭素化することを条件に、別枠で対象とされています。

つまり、都市ガス会社が20年の収入を確保しにいった資産は、いまのところガスを燃やす設備です。脱炭素電源の本体側——蓄電池、揚水、原子力、水素専焼——の名簿には入っていません。

「総合エネルギー企業へ」という言葉から連想される多角化と、実際に長期の資金を張った先は、少しずれています。ずれているというより、電源投資がガス需要と地続きのところに留まっている、と言うほうが正確でしょう。ガスと電力の関係を扱った章で見たとおり、ガス火力は需要と供給の両側にまたがる資産です。売る電気の原資であり、同時に自社が売るガスの行き先でもある。その二重性が、投資判断の説明を容易にします。

論点② 蓄電池では、名簿に載る側に回っていない

では、都市ガス会社が入らなかった脱炭素電源の枠は、誰が埋めたのか。

第3回の落札電源一覧で蓄電池の欄に並ぶのは、CHCJapan、ヘキサ・エネルギーサービス合同会社、Stonepeak Kingdom Holdings合同会社、合同会社蓄電所1号、合同会社蓄電所3号、合同会社NRE-54インベストメント、合同会社ホモデウス、合同会社ポーラーベアー、合同会社ZEUS、合同会社バッテリーパーク15/20、CS青森八戸ESS合同会社——といった名前です。第2回も、Bison energy、日本蓄電、Risu Energy Development Holdings、合同会社青葉電力、合同会社しろくま電力02、合同会社スター1号といった顔ぶれでした。合同会社名義で、案件名がそのまま社名の並びになっているものが目立ちます。一件あたりの落札容量も3万kW前後から14万kW程度に揃っています。

ここで「都市ガス会社は蓄電池をやっていない」と読むと、事実を取り違えます。

東京ガスは2026年7月15日、運用を予定する系統用蓄電池の容量(特別高圧・高圧合計)が107.6万kWになったと発表しました。2024年4月の本格参入発表から約2年です。会社はこの事業を三つの取り組みとして説明しています。蓄電所の自社開発、オフテイク契約による他社蓄電所の利用権獲得、そして最適運用サービス。同時に公表された岡山県美作市の美作蓄電所(蓄電池出力2.9万kW、2028年度商業運転開始予定)は、蓄電池事業者が合同会社バッテリーファーム、蓄電池開発事業者がKingdom BESS——米インフラ投資会社Stonepeak Partners LPが設立した系統用蓄電池プロジェクト開発プラットフォームで日本市場の案件開発・管理を担う事業会社——であり、同社が結んだのは最適運用サービス契約です。2030年代前半に200万kW規模到達を目指すとしています。

出典:東京ガス「系統用蓄電池事業への本格参入発表から約2年で運用予定容量1GWを突破」(2026年7月15日)

ここで名簿に戻ります。第3回の蓄電池落札者には「Stonepeak Kingdom Holdings 合同会社」が3件——Kingdom-1が32,778kW、Kingdom-3が95,582kW、Kingdom-6が45,931kW——で入っています。この3件と同社の107.6万kWがどう関係するのかは、どちらの公表資料にも書かれていません。運用予定容量107.6万kWの内訳も、自社開発分・オフテイク分・受託分の別は公表されていません。

書かれていないこと自体が、この論点です。名簿が示すのは「誰が落札したか」であって、「誰がその設備を動かすか」ではありません。 蓄電池では、開発・保有・運用が別々の主体に分かれ、契約で結ばれます。20年の固定収入を受け取る名義と、日々の充放電を差配する主体は、同じである必要がない。

この分かれ方は、制度設計から考えると理解しやすい。落札すれば固定費水準の収入が20年間確定する代わりに、他市場収益は約9割が還付される。上振れを取りにいく設備ではなく、確定した利回りを長期で持つ設備になります。案件ごとに器を立てて外部資金を入れる形と相性がよい、という説明はつきます。

一方、価格が動く場面で充放電を差配して稼ぐ側は、そもそも設備を持たなくても事業が成り立ちます。同社が挙げる三つの取り組みのうち、オフテイクと最適運用サービスは、資産を持たずに電力市場取引の知見を収益に変える形です。名簿の空白は、意欲の空白ではない。資産の名義を取りにいく競争と、その資産を動かす競争が、別々に走っていると読むほうが筋が通ります。

論点③ 埋まらなかったのは、脱炭素電源のほうだった

第3回の約定結果には、もうひとつ目を引く数字があります。

脱炭素電源は募集量500万kWに対し、約定総容量426.1万kW。募集量に届いていません。約定総額は4,748億円/年で、過去3年平均の他市場収益の推定還付額を控除すると3,420億円/年です。

内訳はこうなっています。

  • リチウムイオン蓄電池・揚水(新設を除く):81.9万kW
  • リチウムイオン以外の蓄電池・揚水(新設)・LDES:88.6万kW
  • 脱炭素火力:51.7万kW
  • 既設原子力の安全対策投資:55.8万kW
  • その他脱炭素電源:148.2万kW

対してLNG専焼火力は、募集量2,929,036kWに対し約定総容量303.8万kW。こちらは募集量を上回りました。約定総額は1,444億円/年です。

落札率にも差が出ています。同資料によれば、蓄電池が46%、揚水が55%。一方、アンモニア混焼への改修・水素専焼・バイオマス専焼・原子力(新設・リプレースおよび既設原子力の安全対策投資)はいずれも100%、LNG専焼火力は64%でした。

蓄電池は応札そのものは多く、その半分以上が落ちている。脱炭素電源の枠全体では、20年の固定収入という条件をもってしてなお、募集量が埋まらなかった。

ここに、業界の温度が出ています。ガスを燃やす枠のほうが先に埋まるという結果は、脱炭素電源への投資意欲が足りないという単純な話ではなく、電源種ごとに上限価格が設定される仕組みのなかで、コストが収まる案件がどれだけあるかという話でもあります。それでも、需給の穴を埋める役割としてLNG火力に確実な需要があることは、数字として現れています。

都市ガス会社にとっては、これが二重の意味を持ちます。自社が投資する側としての判断材料であり、同時に、他社が建てるLNG火力が自社の販売先になるという話でもある。第3回のLNG専焼火力4件は、いずれ燃料を買う設備です。

反対から見ると

ここまでの読みには、いくつも留保が要ります。

第一に、これは落札した会社の名簿であって、応札した会社の名簿ではありません。 第3回の蓄電池の落札率は46%、揚水は55%です(いずれも容量ベース)。応札の半分以上が落ちている区分がある以上、「名簿にない=挑まなかった」とは言えません。公表されるのは落札電源だけで、落ちた応札者は表に出ません。

第二に、名簿からは最終的な出資者までは読めません。 合同会社名義の案件について公表されるのは、応札事業者名と案件名、落札容量(脱炭素電源はこれに電源種)だけです。公表にあたっては、個社情報が特定されないよう原則として3者以上のデータで構成されるよう集計する、という配慮がなされていると資料自身が書いています。「都市ガス会社の名前がない」ことと、「都市ガス会社が関与していない」ことは同じではありません。

第三に、落札率の低さは意欲の指標ではありません。 電源種ごとに応札の上限価格が設定されており、上限を超えた応札は非落札として処理されます。落ちた案件の多くは、単に価格が合わなかった可能性がある。第3回では電力・ガス取引監視等委員会の監視結果による応札価格の修正と応札の取り下げも反映されています。

第四に、LNG専焼火力の枠に入ることは、脱炭素からの後退ではありません。 この枠自体が、供給力提供開始から10年後までの間に脱炭素化に向けた対応を開始し、2050年までに脱炭素化することを条件としています。制度の側が、移行期の設備として明示的に位置づけたものです。

第五に、母数が小さい。 都市ガス大手は数社しかなく、3回のオークションで社名が出た案件も3件です。傾向として語るには少なすぎる数であり、案件の準備時期がたまたま重なっただけ、という読み方も否定できません。

そのうえで残るのは、事実としての配置です。3回分の名簿で都市ガス会社の社名が出た枠は、いずれもLNG専焼火力だった。蓄電池では、名簿に載るのは別の主体で、ガス会社は契約でつながる側にいる。

経営への問い

「総合エネルギー企業」という言葉は、事業の幅を語ります。名簿が語るのは、長期の資金をどこに置いたかです。

問いを、ひとつに絞ります。自社の電力事業は、いま「発電する事業」なのか、「調達して売る事業」なのか。

背景で見た数字では、卸他の伸び率28.4%が小売の14.0%を上回っていました。売る量は増えている。その電気の出どころが自社電源なのか市場調達なのかで、価格が動いたときに損益のどこが揺れるかは変わります。事業モデルの章で見たとおり、ガス事業は装置産業として資産を持つことで成立してきました。電力を第2の柱と呼ぶとき、その柱に同じ意味での資産があるのかどうか。

これは「持つべきだ」という主張ではありません。持たない設計にも合理性があり、実際に多くの新電力がその形で伸びました。ただ、運用で稼ぐ側に立つなら、価格変動は自分の損益に出ます。20年の固定収入は受け取らず、上振れも下振れも引き受ける。蓄電池の最適運用サービスも、その線の上にある事業です。

次に約定結果が公表されるとき、名簿にどの社名が並ぶかは、各社がどこに長期の資金を置いたかの答え合わせになります。そこに自社の名前が出ないとしたら、それは選んだ結果として説明できる状態になっているでしょうか。

まとめ

  • 長期脱炭素電源オークション3回分(応札年度2023〜2025年度)の落札電源一覧で、都市ガス大手が落札した枠はいずれもLNG専焼火力だった。東京瓦斯の千葉袖ケ浦パワーステーション604,831kW、大阪瓦斯の姫路天然ガス発電所3号機565,780kW(第1回)、東邦瓦斯の(仮称)ガス火力発電所101,614kW(第2回)。第3回は都市ガス大手の社名が出ていない
  • ただし蓄電池をやっていないわけではない。論点②で見た2026年7月15日のリリースでは、運用を予定する系統用蓄電池の容量(特別高圧・高圧合計)が107.6万kWになったと公表されている。事業の柱は自社開発・オフテイクによる利用権獲得・最適運用サービスの三つで、美作蓄電所では蓄電池事業者・開発事業者と別に最適運用サービス契約を結んでいる。名簿に載る主体と、設備を動かす主体は同じとは限らない
  • 第3回は脱炭素電源が募集量500万kWに対し約定426.1万kWで未達、LNG専焼火力は募集量2,929,036kWに対し約定303.8万kWで超過。落札率は蓄電池46%、揚水55%に対しLNG専焼火力64%、水素専焼・アンモニア混焼改修・原子力・バイオマス専焼は100%
  • 名簿は落札者のみを載せる。落ちた応札者は表に出ず、合同会社名義の案件は最終的な出資者まで公表されない。第3回の蓄電池落札者にはStonepeak Kingdom Holdings合同会社が3件入っているが、それと運用予定容量107.6万kWの関係は双方の公表資料に記載がない。名簿にないことと関与がないことは別である

※ 筆者は都市ガス事業者に勤務しています。本記事は公表情報のみに基づく個人の見解です。