トップ読み解き / 制度・再編
読み解き 制度・再編 2026年8月26日(水) 6:00

下げる制度に、物価が入る

ガスシステム改革の検証案が示した、託送料金と供給計画の作り直し

約7分 ガスみらい通信 編集

自由化は、競争と効率化でコストを抑える発想で組み立てられてきました。改革の全体を振り返った検証の案には、その発想だけでは足りないと整理された箇所が並びます。託送料金の原価に、消費者物価と雇用者所得等の変動見込みを算入する——そういう項目です。

① いま、何が起きているのか

2026年8月10日、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会の「ガス事業環境整備ワーキンググループ」第12回会合が開かれ、資源エネルギー庁が「ガスシステム改革の検証結果と今後の方向性(案)」を示しました。

位置づけを先に押さえておきます。2017年4月の小売全面自由化、2022年4月の導管部門の法的分離。改正法全体が施行された後に行う検証として、ガスシステム改革全体にわたる検証を2027年3月までに実施することとされており、今回の資料はその本体にあたります。単発のニュースではなく、改革全体の総括です。

対応方針のうち、数字や手続きが実際に動くものを拾います。

  • 供給計画・製造計画の期間を、原則3年間から一律5年間に延長
  • 供給計画の様式に、合成メタン・バイオガス・水素の需給見通し、大型需要家数、スマートメーター取付数を追加(コミュニティーガスは様式枚数・項目を削減)
  • 都市ガスの供給計画・製造計画の換算熱量を46MJ/㎥から45MJ/㎥に変更
  • LNG基地を所有する主要な都市ガス事業者のLNG調達計画と受入・払出・在庫予定量を、非公開を前提に2週間に1度、定期的に調査
  • 託送料金の原価に、消費者物価および雇用者所得等の変動見込み(エスカレーション)を算入。変分改定の対象費用に水道料と占用料を追加
  • 一般ガス導管事業者の事業報酬率の算定方法を見直し
  • 変分改定に係る標準処理期間を4月から2月に短縮

実施の時期も書かれています。これらの省令改正・通達見直しは、2026年度中を目途に実施する。いま起きたことではなく、これから効いてくる制度です。

出典:資源エネルギー庁「ガスシステム改革の検証結果と今後の方向性(案)の概要」(第12回 ガス事業環境整備ワーキンググループ・2026年8月10日)

② なぜ、これが重要なのか

託送料金は、認可された原価をもとに決まります。効率化でコストを抑えることを促す仕組みが中心にあり、将来の物価や人件費が上がる見込みを、あらかじめ原価に積むという発想とは距離がありました。

今回の案は、そこに消費者物価および雇用者所得等の変動見込みを算入すると書いています。水準の多寡ではなく、原価を将来どちらへ動く前提で計算するかという枠組みに手を入れる項目だ、というのが筆者の読みです。資料の課題認識も、物価や人件費等の上昇が進むなかでもガス事業者が必要な投資を行える環境整備が必要、という書き方になっています。

資料は現状の評価もあわせて置いています。小売全面自由化以降、新規参入者が全体販売量に占める割合は約19%まで増加。経過措置料金規制の解除も進み、対象だった12社のうち2026年10月時点で残置は3社。調達面ではガス小売事業者が調達するLNGのうち長期契約の割合が9割程度を維持し、保安面では非耐震管対策の投資を続けて2025年3月末時点の耐震化率は93.1%。競争は入り、料金抑制も安定供給も一定の成果が認められる、という評価です。

にもかかわらず課題として名指しされたのは、担い手の確保と、投資の原資でした。人口減少で担い手不足が顕在化し、物価と人件費が上がる中でも必要な投資ができる環境整備が要る——そう書かれています。競争と効率化だけでは届かない領域が残った、という整理です。

だから資料は、これからの視点をこう置きます。市場競争や効率性の追求を中心とする見方に加えて、事業の持続性の確保と、関係者による協創。10年前の改革が掲げた語彙とは、明らかに手触りが違います。

③ だとすると、業界はこう動く

導管事業者にとっては、投資計画の前提が変わります。 原価に物価と雇用者所得等の変動見込みが入り、変分改定の標準処理期間が4月から2月へ半減する。審査の待ち時間が短くなれば、実勢と料金のずれが開いたまま置かれる期間も短くなります。更新投資の資金繰りを組む側には効く変更です。ただし資料自身が、託送料金を含む規制料金は「需要家負担の抑制」と「事業の持続性の確保」のバランスの下で設計する必要がある、と書いています。原資が自動的に増える話ではありません(託送供給の解説章)。

小売・製造の側には、書類の仕事が増えます。 供給計画が5年になり、その様式に合成メタン・バイオガス・水素の需給見通しの欄が加わる。3年計画なら「まだ先の話」で外に置けたものが、5年の枠には入ってきます。構想として語っていた脱炭素の道筋を、行政に提出する数量として書く作業が発生する。埋める根拠を持っている会社と、これから作る会社で、初動が分かれます(メタネーションの解説章)。

換算熱量の46MJ/㎥から45MJ/㎥への変更は、物差しの取り替えです。 供給実態が変わらなくても、計画上の数量表示は変わります。過去の計画値と並べて比較するときに、前提の違いを踏まえる必要が出てきます。

LNGの2週間に1度の調査は、国側の解像度を上げる措置です。 非公開を前提とする、と明記されています。市場に対して在庫を開示するのではなく、需給ひっ迫の兆候を国が早く掴むための仕組みという整理でしょう。対象となる事業者には、報告の頻度が上がるぶんの実務が乗ります(エネルギー安全保障の解説章)。

留保を置きます。示されたのは案です。エスカレーションの具体的な算定方法も、事業報酬率の見直し後の姿も、この概要資料には書かれていません。決まっているのは方向と、2026年度中という目途までです。

④ 経営として、何を問われるのか

省令改正が2026年度中なら、新しい様式で供給計画を出す最初の年度は、そう遠くありません。5年分の合成メタン・バイオガス・水素の需給見通しは、そのとき数字の形で提出されます。

社内で厄介なのは、この欄が「まだ決めていないこと」を先に確定させる圧力として働く点でしょう。調達先も価格も定まらないうちに、5年目の数量を書く。書けば、それが社外に対する自社の想定になります。空欄で出すという選択肢は、様式に欄がある以上、あまり長くは持ちません。

その最初の提出まで、自社に残された時間はあと何回の予算編成でしょうか。

まとめ(3行)

  • 2026年8月10日、ガス事業環境整備ワーキンググループ(第12回)に「ガスシステム改革の検証結果と今後の方向性(案)」が示された。2017年の小売全面自由化と2022年の導管部門の法的分離を含む10年分の検証で、2027年3月までに行うこととされていたもの
  • 制度改正の柱は、供給計画・製造計画の3年から5年への延長と様式への合成メタン等の需給見通し追加、換算熱量の46MJ/㎥から45MJ/㎥への変更、主要事業者のLNG調達・在庫の2週間に1度の非公開調査、託送料金の原価への消費者物価・雇用者所得等の変動見込みの算入、変分改定の標準処理期間の4月から2月への短縮。省令改正・通達見直しは2026年度中が目途
  • 資料は、これからの視点として市場競争や効率性の追求に加えて事業の持続性の確保と関係者による協創を挙げた。ただし示されたのは案であり、エスカレーションの算定方法や事業報酬率の見直し後の姿は本資料には記載されていない
体系で理解する ─ 業界のしくみ
CH6 この記事の背景は、解説シリーズ第6章で体系的に学べます。 第6章 料金と自由化のしくみ 基礎シリーズ|約6分 この章を読む →