CO₂の直接排出が年10万トン以上(直近3年度の平均)ある会社は、9月30日までに国へ二つの書類を出す。一つは「自分は制度対象です」という届出。もう一つは、2030年度までの削減目標を書いた移行計画です。そして後者は、その一部が個社ごとに公表されることが決まっています。
① いま、何が起きているのか
GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律・2025年6月に改正)に基づく排出量取引制度が、2026年度から始まっています。経済産業省のリーフレット「GX推進法に基づく排出量取引制度が開始します」2026年度版が、初年度にやることを整理しています。
- 全事業者:自らが制度対象か否かを判定する
- 対象の場合:4月1日から、CO₂の直接排出量等を算定する
- 対象の場合:9月30日までに、制度対象である旨等の届出と、移行計画を提出する
線引きは、前年度までの直近3年度のCO₂直接排出量を平均した量(年度平均排出量)が10万トン以上かどうか。2026年度の判定は、2023年度から2025年度までの平均で見ます。判定は事業者単位で、子会社・関連会社はいずれも別事業者として扱われます(密接関係者と一体的にGX投資を行う場合は、共同での届出等が認められます)。
対象になるのは直接排出(いわゆるScope1)だけです。他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出(Scope2)は対象外。対象ガスもCO₂のみで、メタンなどCO₂以外の温室効果ガスは含みません。
制度の骨格は、政府が一定の基準の下で排出枠を無償で割り当て、対象者は毎年度の排出実績量と同量の排出枠を期限までに保有する、というもの。足りなければ市場で調達します。ただし初年度は特例が置かれ、本来は制度対象年度に行う排出目標量等合計量の届出と排出枠の割当てが、2026年度分に限り2027年度になりました。今年出すのは届出と移行計画の二つだけで、登録確認機関の確認を要するものはありません。もっとも排出実績量の算定対象期間は2026年度から始まっているため、確認機関とのやりとりは今年度のうちから、と同リーフレットは勧めています。
出典:経済産業省「GX推進法に基づく排出量取引制度が開始します」(2026年度版)
② なぜ、これが重要なのか
ここまでは義務の話です。ガス業界から見て効いてくるのは、その裏側にある二つの線引きのほうだと思います。
一つめは、Scope1だけが義務量に効くという設計です。大口需要家が工場でガスを燃やせば、それはその需要家自身の直接排出として排出枠の保有義務に乗ります。同じ熱を電気でつくれば、排出は間接排出に移り、制度上の義務量からは外れる。排出そのものが消えるわけではなく、発電側の直接排出に移るだけですし、発電部門への有償の割当ても後の段階で予定されています(GXとカーボンプライシング)。それでも、需要家の帳簿の上では、いま線の位置が動いています。
二つめは、移行計画が公表されることです。リーフレットによれば、記載事項のうち「前年度のCO₂排出量」「2030年度までのCO₂排出量の目標」(2030年度の目標のみ)「研究開発投資の内容」「その他(カーボンニュートラル実現に向けた戦略等が記載された各社の公表文書)」が、経済産業大臣及び事業所管大臣によって個社ごとに公表されます。設備投資計画の内容・効果は、この公表対象には入っていません。
そして移行計画には、直接排出量と間接排出量の両方を書きます。義務量に効くのはScope1でも、計画のほうは両方を出させる。電化して間接に移した分も、紙の上には残る建て付けです。
③ だとすると、業界はこう動く
いちばん実務が変わるのは、営業と需要家対応の情報基盤ではないでしょうか。
これまで、大口需要家の脱炭素方針は「聞きにいくもの」でした。担当者との会話、環境報告書、中期計画。粒度も更新時期もばらばらで、横に並べて比べるのは骨が折れる。それが、年10万トンという同じ線で切られた事業者について、同じ項目で、同じ年(2030年度)の目標として出てくることになります。
並べば、これまで見えにくかったものが見えます。同じ業種のなかで目標の水準が揃っているのか、ばらけているのか。前年度の排出量に対して2030年度の目標がどれくらいの傾きなのか。傾きが急な会社ほど、燃料転換か、脱炭素ガスの調達か、設備更新のどれかを、この数年のうちに決めることになります。
ガス会社から見れば、案件の発見ルートが一本増えるということでもあります。同時に、自社が売っているガスが顧客のScope1に載っている以上、顧客の削減目標は自社の販売量の話でもある。需要構造を読み直す材料が、公開データとして出てくる、という言い方もできます。
ただし、過大評価はしないほうがいい。公表されるのは目標と前年度実績と研究開発の中身であって、どの設備をいつ止めるかという設備投資計画は公表対象から外れています。読めるのは方向と傾きまでで、時期までは読めません。
④ 経営として、何を問われるのか
移行計画が公表されれば、この情報は「取りにいけば取れるもの」に変わります。公表の時期はリーフレットに書かれていませんが、届出が出そろったあと、いずれ読める場所に出てくる。問題は、取りにいく担当が決まっているかどうかです。
公表資料を読み込んで顧客ごとの傾きを整理する作業は、営業の仕事にも、経営企画の仕事にも、脱炭素部門の仕事にも見えます。だから、どこの仕事でもなくなりやすい。しばらく経ってから「そういえばあれ、誰か見てましたっけ」となる類の情報です。
公表された移行計画を最初に開くのは、自社の誰でしょうか。
まとめ(3行)
- GX-ETSの初年度対応は2026年9月30日が期限。対象は直近3年度のCO₂直接排出量の平均が10万トン以上の事業者で、出すのは届出と移行計画の二つ(初年度特例で、排出枠の割当ては2027年度)
- 義務量に効くのは直接排出(Scope1)のみで、間接排出(Scope2)とCO₂以外のガスは対象外。ただし移行計画には直接・間接の両方を記載する
- 移行計画の一部は個社ごとに公表される。大口需要家の2030年度目標が、同じ項目で並ぶ情報になる