原料が上がった期の決算は、たいてい苦しい数字が並びます。大阪ガスの第1四半期もそうでした。ただ同じ資料の中に、原料が上がったまま増えている行が一つあります。
① いま、何が起きているのか
2026年7月30日、大阪瓦斯株式会社が2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の決算を公表しました。連結の数字はこうです。
- 売上高 4,780億円(前年同期比 +1.5%)
- 営業利益 313億円(△34.3%)
- 経常利益 502億円(△15.3%)
- 親会社株主に帰属する四半期純利益 356億円(△26.5%)
短信は、経常利益が90億円減った理由として、国内エネルギー事業での「原料価格等の変動が販売単価に反映されるまでのタイムラグによる減益影響」などを挙げています。決算説明資料の増減分析ではもう少し細かく、国内エネルギーのセグメント利益が266億円から39億円へ226億円減り、そのうちタイムラグ影響が▲218億円(ガス▲169億円、電力▲48億円)と記載されています。
その同じ表に、逆を向いている行があります。ガス事業粗利(タイムラグ影響を除く)が574億円から607億円へ、+33億円。会社が挙げている理由は「JLCと比較した当社長期契約LNGの競争力向上」です。JLC(Japan LNG Cocktail)は、全日本のLNG平均輸入価格を指します(出典:JOGMEC「天然ガス・LNG最新動向 ―LNG価格システムの課題、油価上昇がもたらした一物二価―」(2020年10月13日))。
タイムラグ影響を除いた経常利益は、452億円から579億円へ+127億円の増益。同じ四半期が、含めると90億円の減益、除くと127億円の増益になります。
通期の見通しも修正されました。売上高は2兆700億円から2兆1,700億円へ+1,000億円。一方で営業利益1,500億円、経常利益1,900億円、当期純利益1,450億円は前回予想から変更なしと記載されています。前提の原油価格(全日本CIF)は65ドル/バレルから80ドル/バレル、為替は155円/ドルから160円/ドルへ見直されました(2026年7月〜2027年3月)。
出典:大阪瓦斯株式会社「2027年3月期第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年7月30日)/同「2027年3月期第1四半期決算 プレゼンテーション資料」
② なぜ、これが重要なのか
タイムラグ(期ずれ)そのものの仕組みは、先週の東邦ガスの第1四半期の回で見たとおりです。ここで見たいのは、その裏側にある行のほうです。
会社資料は原料費調整制度を、「基準となる原料価格と、LNG・LPGの貿易統計に基づく3か月の平均原料価格との差額を毎月算定し、その結果を3か月後のガス料金に反映」と説明しています。反映のタイミングが遅れる、という話は広く知られていますが、もう一つ効いている条件があります。料金に乗る原料費は、その会社が実際にいくらで買ったかではなく、日本全体の平均で決まる、ということです(制度の骨格は料金と市場の章にあります)。
そうであれば、自社の調達がその平均より安ければ差は手元に残り、高ければ削れます。制度は原料価格の絶対水準の変動を(時間差を伴いながら)料金に転嫁してくれますが、平均に対する自社の位置までは面倒を見てくれない。「JLCと比較した当社長期契約LNGの競争力向上」という一行は、その差が前年より開いたという報告の形をしています。
ここには留保が要ります。資料はこの+33億円の内訳を開示していません。どの契約がいくら効いたのかは、この資料からは切り分けられない。さらに、タイムラグを除いた経常利益+127億円のほうは「競争力向上等により」と閉じられており、長期契約の分だけでこの増益が説明できるわけでもありません。差が開いた、というところまでが公表資料から言えることです。
③ だとすると、業界はこう動く
第一に、調達の差は、原料高の期ほど後ろに回ります。短信の本文で減益の理由として名前が出るのはタイムラグのほうで、粗利が33億円増えていたことは、決算説明資料の増減分析まで開かないと出てきません。四半期の見出し数字を並べるだけでは、この二つは同じ方向に見えてしまう。読む側に手間が要ります。
第二に、同じ数字が時間軸によって符号を変えます。会社が示した感度表では、原油価格が1ドル/バレル上がると連結経常利益はタイムラグ影響を含んで▲12.1億円、除くと▲1.7億円。為替が1円/ドル円安になると、含んで▲6.2億円、除くと+1.6億円です。円安は短い時間軸では減益要因、時間差を外すと増益要因になる。決算の議論が噛み合わないとき、たいてい両者は別の時間軸の話をしています。
第三に、価格の話と安全保障の話が、同じ資料に同居しています。中東情勢について会社は、足元では「ホルムズ海峡を通過する必要がある国からの長期契約での調達は無く、各国から分散して調達を行っている」と記載し、当期のLNG長期契約の調達先主要国としてオーストラリア、パプアニューギニア、アメリカ、ロシアを挙げています。7月末に見たとおり、海峡の通航そのものが疑われる相場では在庫の厚みが効きにくい。どこから買う契約になっているかは、価格競争力の話であると同時に、途絶リスクの話でもあります(LNG市場の章、エネルギー安全保障の章)。
第四に、通期の修正が「売上高だけ+1,000億円、利益は±0」という形をとったこと。理由として挙げられているのは、原料費調整制度に基づきガス販売単価が高く推移することなどです。売上高は、原料価格の高さをそのまま写す。増収の見出しが、必ずしも良い知らせを意味しない業種だということが、この修正の形に出ています。
④ 経営として、何を問われるのか
原料が上がった理由を社内で説明するとき、資料はたいてい「相場が上がったので」の一行で足ります。それは事実なので、誰も反論しません。
その一行の後ろに、自社の契約についての一行を足せるでしょうか。平均に対してどちら側にいて、それは去年と比べて広がったのか縮んだのか。答えは調達部門の手元にはあるはずですが、決算の場に出てくるのは、たいてい差が動いた年だけです。
動かない年に誰も見ないものは、動いた年にも読み解けません。
まとめ(3行)
- 大阪ガスの2027年3月期第1四半期は、売上高4,780億円(+1.5%)、経常利益502億円(△15.3%)。国内エネルギー事業のタイムラグ影響▲218億円(ガス▲169億円、電力▲48億円)が減益の説明に挙げられている
- 同じ期に、ガス事業粗利(タイムラグ影響を除く)は574億円→607億円と+33億円。会社が挙げた理由は「JLCと比較した当社長期契約LNGの競争力向上」。タイムラグを除いた経常利益は+127億円の増益。ただし内訳は開示されていない
- 通期は売上高のみ2兆700億円→2兆1,700億円へ上方修正し、利益は据え置き。前提は原油65→80ドル/バレル、為替155→160円/ドルへ見直された