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読み解き 特集 2026年8月22日(土) 6:00

コストが下がる前に、期限が来る

e-メタン1%目標。経済性を、技術ではなく制度の側から埋めにいく設計

約11分 ガスみらい通信 編集

e-メタンは高い。だから安くなるまで待つ——という順番に、制度はなっていない。2030年度に供給量の1%。この期限は、革新的メタネーションが大量生産に届くとされる2040年代より、十年ほど前にある。

技術が間に合わないなら、差額は誰かが負担することになります。その置き場所は、すでに決まっている。この特集は、e-メタンの経済性がどこで帳尻を合わせる設計なのかを掘ります。

背景 — なぜ今、これを掘るのか

まず、目標の文言を正確に置いておきます。2025年2月18日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、こう書いている。2030年度において、供給量の1%相当の合成メタン又はバイオガスを導管に注入し、その他の手段と合わせてガスの5%をカーボンニュートラル化していく。そのためにこれらの導入目標をエネルギー供給構造高度化法の判断の基準等に位置付け、その導入コストのうち、ガスの一般的な調達費よりも割高になる部分は、ガス小売事業者間の公平な競争環境を整備する観点から、託送料金原価に含めることができる仕組みを構築する、と。

出典:資源エネルギー庁「合成メタン(e-methane)等をめぐる状況について」(第14回 メタネーション推進官民協議会・2025年6月・資料3)

この一文には、順番が埋まっています。「コストが下がったら導入する」ではなく、「導入することを前提に、割高な部分の置き場所を決める」。

そして、この設計はもう動いています。2025年12月の官民協議会に出された資料は、検討状況の欄にこう書いています。2025年7月、高度化法で合成メタン等の導管注入目標を義務づけ(2030年1%)、事業者は、2026年1月までに目標達成計画を作成。託送料金による調達費回収(2025年7月施行)、と。

出典:資源エネルギー庁説明資料(第15回 メタネーション推進官民協議会・2025年12月2日・資料3)

つまり2030年度の1%は、これから決めることではありません。目標は法令に置かれ、達成計画の提出時期も過ぎている。

ただし、計画を出すのは全社ではありません。同じ資料が整理する高度化法の枠組みでは、計画作成事業者は前事業年度における供給量が900億MJ以上の事業者とされ、対象は東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの3社です。目標そのものは各事業者の供給量にかかり、計画を出す義務は大手に置かれている。

制度の側は、いまも動いています。2026年8月10日の検証案は、2026年度中を目途に実施する省令改正・通達の見直しとして、合成メタン等の販売における情報開示に関する通達の見直しと、オンサイトメタネーション等の供給に係る事業規制の緩和に関する通達の見直しを挙げました。

出典:資源エネルギー庁「ガスシステム改革の検証結果と今後の方向性(案)の概要」(第12回 ガス事業環境整備ワーキンググループ・2026年8月10日・資料4-1)

売り方の開示と、作り方の規制。手当てされているのは、製造原価そのものではない。以下、三つの論点で掘ります。

論点① 二つの時計が、同じ年を指していない

技術の側の時計を見ます。第7次エネルギー基本計画は、既存のメタネーション技術より生産効率が飛躍的に高まる革新的メタネーション技術について、2030年の基盤技術の確立、2040年代の大量生産技術の実現を目指す、と書いています。グリーンイノベーション基金による技術開発は3年ごとのステージゲート審査を挟む形で進み、2件の革新的メタネーション案件は2025年1月のゲートを通過しています。2024年10月には、エネルギー価格の高騰や急激な円安などプロジェクト開始当初に予見が困難であった環境の変化によるプロジェクトの成果の未達成などを回避するため、約298億円への増額が決定されています(東京ガス・IHI・JAXAの低温プロセスによる革新的メタン製造技術開発が約40億円、大阪ガス・産業技術総合研究所のSOECメタネーション技術革新事業が約257億円。いずれも前掲・2025年6月の資料3)。

効率の差は、業界団体の資料に数字で出ています。投入する再生可能エネルギーを100としたとき、そこから製造されるe-メタンのエネルギーは、従来メタネーションで55〜60。革新的メタネーションでは、ハイブリッドサバティエが80超、PEMCO2還元が70超、SOECメタネーションが85〜90(いずれも将来的ポテンシャル)。

出典:日本ガス協会「ガスビジョン2050」「アクションプラン2030」(2025年6月3日)

数字を並べると、2030年度の1%が何で埋まるのかが見えてきます。大量生産技術は2040年代、基盤技術の確立が2030年。つまり1%は、革新的メタネーションの完成品では埋まりません。埋めるのは、いまある技術で作ったものと、海外から運んでくるものと、バイオガスと、環境価値の移転です。

メタネーションの解説章で見たとおり、サバティエ反応そのものは百年以上前から知られた確立技術です。難しいのは反応ではなく、大きく・安く・クリーンな原料でやること。時計がずれているというのは、そのうち「安く」の部分だけが遅れて到着する、ということです。

論点② 差額の置き場所が、先に決まっている

では割高な部分はどこへ行くのか。第7次エネルギー基本計画の答えは、託送料金原価です。理由として書かれているのは、ガス小売事業者間の公平な競争環境を整備する観点、というものでした。

託送料金の解説章の構造に当てはめると分かりやすい。託送料金は導管を使う全員が同じ条件で払う費用で、そこに載ったコストは小売の価格競争の外側に出ます。割高分を各社が仕入れとして抱えれば、多く調達した会社ほど高くなる。だから原価の側へ移す。

裏を返せば、負担は導管を使う需要家全体に、広く薄く配られます。

ただし、託送で回収できるものには入口の条件があります。2025年7月にガス事業法関連法令等が改正され、託送制度を活用した調達費回収の枠組みでは、バイオガスに加えて合成メタンも対象になりました。その合成メタンの要件は水素社会推進法を引用しており、CI値が49.3g-CO2e/MJであること、原料となるCO2の二重計上を回避していること等が必要とされています。基準値の考え方は、水素製造部分を化石燃料由来のグレー水素から約7割削減し、その上で合成や輸送等に係るエネルギーを加算する、というものです(前掲・2025年12月の資料3)。安ければ載るのではない。炭素集約度の線を越えたものだけが、託送の側に入れます。

価値の側の扱いも、同じ整理のなかに書かれています。託送料金制度の活用として並ぶのは、環境価値をその導入に係る費用を負担しているガス小売事業者に公平に分配すること、分配された環境価値については、例えばカーボンニュートラルなガスの割合を小売供給の特性とするメニューにおいて、特定の需要家向けに用いることを可能とすること(前掲・2025年12月の資料3)。費用は託送で薄く配り、そこから生まれた価値は費用を負担した小売事業者へ戻す。戻ってきた価値を誰に売るかが、小売の判断として残ります。

2026年8月10日の検証案は、合成メタン等の導入を前提として、ガス事業においても、今後、排出削減価値ありのメニューによる小売販売が本格的に行われていくことが見込まれる、と書き、そのうえで需要家保護の観点から、ガス事業における排出削減価値の適正な取引の在り方について検討が必要だとしています(前掲・第12回WG資料4-1)。

コストは託送へ、価値は小売へ。この分け方が効くと、e-メタンの経済性は「製造原価が天然ガスに追いつくか」だけでは決まらなくなります。

論点③ 経済性の半分は、会議室で決まる

その「価値」は、自然に存在するものではありません。誰がどう数えてよいかを決めるルールがあって、はじめて値段がつきます。

すでに動いた部分から並べます。合成メタンの利用に係る排出量の算定について、2024年6月の環境省・経済産業省合同の検討会等で、地球温暖化対策推進法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度におけるカウントルールの整理が行われ、2025年2月に関係する法令等が整備されました。具体的には、原排出者と利用者の合意により排出削減価値が移転するカウントルールについて、2025年度報告(2024年度実績)から適用されています。さらに2025年5月のガス事業者の排出係数の算定方法等に関する検討会では、託送制度を活用して供給された合成メタン・バイオガスに関する排出係数への反映方法が整理されました(前掲・2025年6月の資料3)。

まだ動いていない部分もあります。次世代燃料の環境価値を適切に主張するための証書制度は、2025年3月の脱炭素燃料政策小委員会で段階的な立ち上げを検討することが整理され、2025年度は2026年度の実証開始に向けた準備にあてられました。合成メタンなどの気体燃料も実証の対象に追加されています。国際側では、企業の排出量算定・報告基準のデファクトスタンダードであるGHGプロトコルが、SCOPE1における証書の導入などに関する改定草案のパブリックコメントを2025年第4四半期に行ったうえで、2028年中に改定される予定です(同前)。

国内の報告制度でのカウントは適用が始まり、証書制度は実証がこれから、国際基準の改定は2028年。2030年度に向けて調達を決める時期は、そのあいだに挟まっています。

同じ意味で重いのが、環境価値の移転です。日本ガス協会は、輸入・製造場所とパイプラインで繋がっていない場所でもe-メタンの環境価値を利用できる仕組みの構築に貢献する、としています(前掲・アクションプラン2030)。認められる範囲の広さは、そのまま1%を埋める手段の幅になります。GXとカーボンプライシングの章で見た「排出に値段がつく」構図は、こちら側では「削減に値段がつく」構図として現れる。工場の効率と同じくらい、会議室の結論が経済性を左右します。

反対から見ると

ここまでの筋には、留保が要ります。

第一に、1%は小さい。残りの99%は天然ガスです。制度が整っても、2030年度時点でガスの排出が大きく減るわけではありません。しかも高度化法の判断の基準には、効率的な経営の下における合理的に利用可能な範囲内において、各ガス事業者のガス小売供給量(熱量ベース)の5%相当量の合成メタン又はバイオガスを調達して導管に注入する、という目標も併せて置かれています(前掲・2025年12月の資料3)。1%は、条件の付かないほうの目盛りです。

第二に、目標の文言は「合成メタン又はバイオガス」です。バイオガスで埋まった分は、e-メタンの経済性が成立した証拠にはなりません。海外で大規模に作って運ぶ話と、地域から出るものを使う話が、同じ1%の枠に入っている。内訳がどちらに寄るかで、この目標が何を証明したことになるのかは変わります。

第三に、業界自身の見取り図が幅を持っています。ガスビジョン2050が示す2050年の姿は、e-メタン・バイオガスが90〜50%程度、天然ガス+CCUS等が10〜50%程度、水素直接供給が数%程度。そして注記にはこうあります。円グラフは、技術革新の進捗や政策支援・CO2カウントルール等の制度整備状況、世界のエネルギー情勢に応じて変動します、と。主役の比率に40ポイントの幅があり、その説明として制度整備状況が名指しされている。経済性がいつ合うのかという問いに、業界の側も一つの答えを置いていません。

第四に、ガスの中身が変われば規格も動きます。同じ検証案の対応方針には、標準熱量の在り方に関する、技術・保安・需要家への影響等の観点からの検証が入っています。混ぜるものが変われば、熱量をどう揃えるかという古い問題が戻ってくる。

経営への問い

2030年度の1%を、自社は買うのか、作るのか、価値だけを受け取るのか。

三つは並列ではありません。買うなら海外サプライチェーンの立ち上がりに賭けることになり、作るならオンサイトの規制緩和とバイオガス原料の確保が前提になり、価値だけを受け取るなら証書制度と国際基準の結論に依存します。依存先が違えば、いま社内で誰と話しておくべきかも違います。

目標達成計画の提出を求められたのは、供給量900億MJ以上の3社でした。それ以外の事業者に、1%は計画の紙としてではなく、調達の現場に直接やってきます。

まとめ

  • 第7次エネルギー基本計画は2030年度に供給量の1%相当の合成メタン又はバイオガスの導管注入を掲げた。2025年7月には高度化法で導管注入目標が義務づけられ、託送料金による調達費回収も施行。計画作成事業者は供給量900億MJ以上の3社で、目標達成のための計画は2026年1月中旬までに提出とされた
  • 一方で革新的メタネーションは2030年の基盤技術確立、2040年代の大量生産技術実現が目標。効率は従来型が投入再エネ100に対し55〜60、SOECメタネーションが85〜90(将来的ポテンシャル)で、二つの時計は同じ年を指していない
  • コストは託送へ、価値は小売へ。託送で回収する合成メタンはCI値49.3g-CO2e/MJ等が要件。排出削減価値の移転ルールは2025年度報告から適用され、証書制度は実証と制度設計の検討段階、GHGプロトコルの改定は2028年中の予定
  • ガスビジョン2050の2050年像はe-メタン・バイオガスが90〜50%程度と幅を持ち、その幅の理由に制度整備状況が挙げられている
  • 経済性は「いつ合うか」ではなく「どこで合わせるか」の問題として設計されている