料金の裏側にある「送る」コストが、静かにルールを変えつつあります。電力の送配電で使われてきた託送料金の決め方に、物価上昇を期の途中で反映する仕組みが2026年度から入ります。地味な制度改正に見えますが、これは「老朽化したインフラの更新コストを、誰がどう負担するか」という、ガスにも共通する問いの前哨戦です。今日はこの動きを業界目線で読み解きます。
① いま、何が起きているのか
電力の送配電網(一般送配電事業者)の託送料金は、2023年度からレベニューキャップ制度で決まっています。事業者が5年間(規制期間)の投資・費用計画を出し、国の審査を経て「この期間に回収してよい収入の上限」を先に固定する、という仕組みです。原則、期間中はこの上限が動きません。
ここに見直しが入ります。労務費・資材費・金利の急上昇で計画時の想定を費用が上回り、送配電事業の採算が悪化しているためです。電力・ガス取引監視等委員会の議論を経て、物価上昇を期の途中で反映する「期中調整」を2026年度から導入し、対象は2026・2027年度の2年間とされました。本来の調整は第2規制期間(2028〜2032年度)で行うのが基本ですが、それを待たず、希望する事業者は期中の申請ができるようにする——という整理です。
出典:電気新聞(レベニューキャップ、物価高反映は26年度から)/制度の所管は電力・ガス取引監視等委員会。
② なぜ、これが重要なのか
ポイントは「値上げが入る」ことそのものではありません。規制されたインフラのコスト回収ルールが、物価の時代に合わせて組み替えられ始めた、という点です。
レベニューキャップは、事業者にコスト効率化を促すために「収入の上限を先に固定する」思想で作られました。ところが物価が想定を超えて上がると、この固定が逆に安定供給やGX投資の足かせになりかねない。効率化のための固定と、インフラを維持・更新するための投資回収——この二つのバランスを、制度が取り直しているわけです。
そして忘れてはいけないのは、同じ構造課題がガスの導管網にもあるということ。レベニューキャップは電力送配電の制度で、ガスの託送料金は別建て(認可制)ですが、抱える悩みはよく似ています。高度成長期に敷いた導管の老朽化更新、人件費と資材の高騰、そして脱炭素対応の設備投資。「送り届ける」ためのコストが上がる圧力は、電力もガスも変わりません。
③ だとすると、業界はこう動く
第一に、託送料金は「中長期の上昇圧力」を織り込む前提になります。老朽インフラの更新と脱炭素投資が重なる局面では、「送る」コストは下がりにくい。小売事業者にとって託送料金は仕入れの一部であり、その動き方のルールが変われば、料金設計や採算の前提も見直しが要ります。電力で先に整った回収ルールは、ガス導管の議論の参照点になっていくはずです。仕組みの基礎は託送とパイプライン網のしくみにまとめています。
第二に、「固定して効率化を促す」と「投資を回収させる」の綱引きは、これからも制度設計の中心テーマであり続けます。今回の期中調整は、5年固定という設計思想に対する現実からの修正です。物価が読みにくい時代に、規制インフラのコスト回収をどう機動的にするか——このさじ加減は、消費者の負担と事業の持続性の両方に直結します。
第三に、これは「託送料金は動かない前提」で組んできた計画の見直しを促します。調達や設備投資の中期計画で託送コストを一定と置いていたなら、上昇シナリオを一つ足しておく。制度が機動的になるほど、事業側も前提を機動的に点検する必要があります。
④ 経営として、何を問われるのか
「送り届けるコスト」が上がり続ける前提で、自社の料金と投資計画は組めているか。
託送料金は普段は表に出ませんが、料金の土台であり、インフラの持続性そのものです。老朽更新・人件費・脱炭素投資が同時に効いてくる時代に、「送るコストは一定」という古い前提を残していないか。制度が動き出した今、点検しておきたい問いです。
まとめ(3行)
- 電力送配電のレベニューキャップに、物価上昇を期中反映する仕組みが2026年度から入る(対象は26・27年度)
- 本質は「老朽インフラの更新コストを誰がどう回収するか」。同じ構造課題はガス導管網にもある
- 「託送は一定」の前提は古い。上昇圧力を織り込んだ料金・投資計画が問われる